ブルーカラー・ウィナーでホワイトカラー・ルーザーか? ―中小企業M&Aで問われる「現場をコントロールする力」―

最近、米国で「ブルーカラー・ビリオネア」という言葉が話題になっています。配管、空調、電気工事といった現場仕事の担い手や、その会社のオーナーが富を築く一方、生成AIの普及でオフィスワークの一部が置き換わり始めている。少し刺激的に言えば「ブルーカラーが勝ち、ホワイトカラーが負ける」時代の到来です。今回は、このテーマを中小企業のM&Aの視点から考えてみます。

■ なぜ現場仕事の価値が上がるのか

AIが得意なのは、文書作成、データ集計、定型的な判断といった、画面の中で完結する仕事です。一方、現場で設備を据え付ける、職人を段取りする、お客様の要望をその場で汲み取るといった仕事は、当面AIには代われません。しかも担い手は高齢化し、若手は増えていない。需要は安定しているのに供給が細る。現場の価値が上がるのは自然な流れです。

■ 中小企業M&Aでも「現場力」が勝敗を分ける

この構図は、中小企業のM&Aにもそのまま当てはまります。
中小企業の売手経営者の多くは、プレイングマネージャーです。社長自ら営業に出て、見積もりを作り、現場に立ち、職人や従業員を直接まとめてきました。会社の強みの多くが、社長個人の現場力に支えられているのです。
そのため、社長が退いた後、その役割を誰が担うのかが最大の論点になります。買い手に求められるのは、決算書を読む力や管理手法だけではありません。現場に入り、職人と同じ目線で話し、仕事を回していける力です。
数字と会議だけで会社を動かそうとする買い手に、現場はついてきません。「現場を知らない人の下では働けない」と従業員が離れてしまえば、どれほど条件の良い買収でも会社の価値は失われます。事業承継・M&Aの現場では、デスクの上だけで経営しようとする「ホワイトカラー型」の買い手こそが、敗者になりやすいのです。
売手経営者が買い手を選ぶ際も、価格だけでなく「この人なら現場を任せられるか」を見極めることを強くお勧めします。

■ 本当の勝者は「現場を束ねる仕組み」を持つ者

ただし、職人個人が誰でも勝者になれるわけではありません。身体を使う仕事には年齢の限界があり、一人で稼げる額にも上限があります。大きな価値を手にするのは、職人を育て、束ね、仕事を受け続ける仕組みを持った会社とその経営者です。
そしてその仕組みを支えるのは、見積もり、工程管理、人材育成、資金繰りといった、いわばホワイトカラー的な力でもあります。AIに置き換わるのは「作業」であって、判断や人との関係づくりではありません。

■ 問われているのは「代わりの利かない力」

ブルーカラーはウィナー、ホワイトカラーはルーザーなのか。「現場を知らないホワイトカラーはルーザーになりがち」が合っているように思います。現場をコントロールできる力を土台に、経営の仕組みを重ねられる人材と会社こそが、これからの時代の勝者になると考えます。

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齊藤 肇

長年の外資系IT企業で培ったITシステム導入に関する幅広い経験と知識が強みです。またプロジェクトのマネージメント経験は豊富です。 現在は補助金支援を主に、IT導入、遺言・相続、会社設立、事業承継、企業経営全般まで幅広く中小企業支援を行っています。 主な著書に「老舗の強み」(共著:同友館)、「新世紀を勝ち抜く卸売業の情報システム」(共著:経営情報出版)、「ビジネス能力(3級)合格完全対策」(共著:経林書房)などがあります。