2024年の帝国データバンク調査において同族承継は内部昇格に第一の選択肢の座を譲ることになりました。少子高齢化による親族内での後継者候補の減少や個人の意志を尊重するなど価値観の変化、親子関係の変化などが背景にはあると考えられます。それでも親族間での事業承継には
・取引先/従業員/金融機関/など関係者の理解が得やすい
・株や事業用資産の移動に相続・贈与などが使えるため有利である
・後継者への知識やノウハウの移転に時間が掛けられる。
など多くのメリットがあります。選択肢としては検討対象とすることをお勧めします。
以下に親族間の事業承継に関する進め方を記載します。
【譲る側の進め方】
1.事業を「見える化」する
事業内容や関係先、財務状況、人事状況など経営に関する内容の他、親族関係など事業承継をめぐる状況を整理し「見える化」します。
2.事業承継計画を策定
「見える化」した内容を踏まえ、事業承継の方針を整理します。方針に従い実施内容を洗い出し、年ごとの粒度でスケジュールを策定します。後継者の選定が必要な場合はそのプロセスを含む計画を作成し、関係者間で共有します。
3.後継者の候補抽出と選定、調整
個人の適性や能力、将来の考え方を考慮し後継者候補を抽出します。少子化の進む近年では子息など狭い範囲だけではなく、親族含めでも候補を抽出することをお勧めします。
4.後継者育成(業務経験)
業務経験の提供や研修を通じて、後継者に必要なスキルと知識を習得してもらいます。業務経験では事業の中心となる業務だけでなく、顧客との関係づくりを行う営業、取引先との関係づくりを行う購買、金融機関との関係づくりや金の流れを把握できる会計、人事などを把握できる総務など、必要な業務を会社の事業内容などを踏まえキャリアを積んだうえで、経営者の片腕として経営者自身からその知見を体験し学ぶことをお勧めします。
5.後継者育成(研修)
経営管理や生産管理、販売管理、会計、人事、コミュニケーション、IT、WEBなどは会社内で基礎知識を得られない場合も多く、研修を受けることをお勧めします。中小企業大学校などが行っている「後継者塾」などを受けるのも一つの方法です。当社ではより身近な題材で学ぶことにより、知識を得やすくするため「自社を題材にした個別後継者教育」も行っています。
6.株式、会社及び個人資産の整理と移転計画
株式や会社の資産・負債を整理し、贈与や相続、売買を通じた円滑な移転方法を計画します。円満な事業承継を実現するためには親族が協力できる環境を作ることも必要になります。このため株式・事業用資産は後継者に集中し、その他の法定相続人に対しては、その他の個人資産を移転する考慮が必要になります。近年では贈与や相続に関する制限に関するわずらわしさを回避するため「マネージメント・バイ・アウト(MBO)」を使用する例も多くなっています。これは後継者が別会社を作って現在の会社の株式を買収する方法です。
7.親族への説明と理解獲得
親族が協力できる環境を作るためには親族への説明と理解を獲得することが必要となります。この方法として家族会議があります。家族会議では「6.株式、会社及び個人資産の整理と移転計画」で整理した内容の説明と現経営者による後継者指名、後継者による決意表明などを行います。これにより「事業承継の完成」と「一族の安定した未来の確保」を目指します。必要により、専門家の参加も検討します。
8.ステークホルダーへの説明
社員、取引先、金融機関などに承継計画を説明します。これにより事業継続による信頼を確保し、引き続きの協力依頼を行います。
9.経営権移譲の実施
株式や事業用資産の移転や登記上の変更、許認可の変更など手続きを進めます。法的な移譲準備を進めます。
10.アフターリタイヤメントの計画
「経営の重荷に耐えて、頑張ってこられた経営者にとって事業承継はその肩の荷を降ろすものとなります。それは「新しい人生」へ向かうための区切りをつけるものとなります。」
(事業承継協会の資料より)
アフターリタイヤメントの計画としては、以下のような実施例があります。
・後継者や会社への記録
自ら経営を行ってきた思いを書き留めることは、後継者への引き継ぎの記録となり、会社案内にもなります。
・資産の適切な管理と投資戦略の構築と退職生活の予算と支出計画
・定期的な健康チェックと運動習慣の確立、バランスの取れた食事と栄養補給
・趣味や新しい挑戦の追求
引退した後には経営者の「新しい人生」が始まります。この中での充実した計画を立てていくことをお勧めします。
ご支援先に小規模企業ながらニッチな技術を持った企業様がいらっしゃいます。この会社では経営者から声掛けしていないのに大手企業に勤めてご子息から「会社を継ぎたい」との申し出をされ、現在事業承継に取り組まれている例があります。経営者の方は大きなやりがいを持って進めていらっしゃいます。
現在は経営者にご子息がいらっしゃる場合でも、後継者になることへのお誘いをされていない場合も多いようです。個人の想いを大事にしたいとのお考えもあると思います。ただご子息としても人生の局面でいろいろな選択肢を考えられることもあります。その時に備え事業を承継することを「選択肢として提案する」ことも高い再現性やメリットを持って事業をつなぐ方法になります。