事業承継の専門家として、今後事業承継を行うに当たって知っておいた方がよい知識を定期的に記載していきたいと思います。
第一回目は「事業承継のメリット―後継者視点」です。
中小企業において後継者が事業承継を通じて事業を開始することは、多くのメリットをもたらします。
【後継者にとってのメリット】
1. 時間の短縮
事業承継を通じて事業を開始することで、ゼロからの起業に比べて大幅に時間を短縮できます。特に、顧客・技術・設備・従業員・サプライチェーン・業務プロセスなど事業基盤を引き継ぐことで、業務運営に必要な初期段階の努力や労力、試行錯誤を回避できます。特にIT/AI
など技術変革の激しい分野では、スピード感を持った経営が必要となっており、メリットは大きいです。
2. トライアンドエラーの結果取得
既存事業の承継では、過去に経験した失敗を重ねて得られた商品、製造方法や販売方法、業務プロセスなどを、そのまま受け継ぐことができます。これにより、ロスを最小限とした効果的な経営を行うことが可能です。
3. 容易な事業用資産取得
事業承継では、既存の設備、機械、オフィス、不動産などの、事業に必要とされる資産を引き継ぐことが可能です。これにより、無駄の少ない初期投資とすることが可能になります。
4. ブランドや顧客獲得
既存のブランドや顧客基盤を引き継げることは、事業承継の大きな利点です。新規事業では、信頼を構築して顧客を獲得するのに時間がかかりますが、既存事業では、長年の取引で築かれた信頼と実績をそのまま活用できます。
5. サプライチェーンの獲得
中小企業が市場で競争力を保つためには、信頼できるサプライチェーンの確保が重要です。事業承継では、既存のサプライヤーやパートナーとの取引関係を引き継ぐことが可能であり、新規取引先の開拓に伴うリスクや時間を削減できます。
6. 人的資産の獲得
熟練した従業員や経験豊富な管理職など、人的資産を引き継ぐことも事業承継の魅力の一つです。従業員は企業の運営を支える重要な要素であり、既存の業務知識やスキルを活用することでスムーズな事業運営が可能となります。近年は人材獲得難という経営環境にある事業者が多く、人材獲得を目的としたM&Aが増えています。
7. 必要な資金を確保しやすさ
ゼロから起業する場合、事業計画書の作成や資金調達に多大な時間と労力を費やします。一方、事業承継では、既存事業の実績を基に金融機関からの融資を受けやすく、必要資金も大幅に削減できます。特に親族内承継の場合、譲渡価格が市場価格よりも低く抑えられるケースが多い点も資金面でのメリットです。
私が「老舗の強み」(同友館:共著)で執筆させていただいた星野リゾート様は100年以上の歴史がある老舗ですが、上記のメリットをうまく利用されている例です。例えば星野リゾート・軽井沢エリアでは自然と触れ合う「エコツーリズム」としてピッキオ(https://picchio.co.jp/)
を展開し、フアンを獲得しつづけています。これは現代表である星野佳路氏の先々代にあたる星野嘉政氏が、「日本野鳥の会」を創設した中西悟堂氏とのふれあいの中で始めた野鳥観察がルーツになっています。このブランド(文化)とそれに親しみを持っていた顧客の延長への事業を展開されています。